重加算税(税のペナルティ)の興味深い話

(本記事は弊社事務所通信令和4年10月号に掲載された記事をWeb用に書き換えたものです)

私の近況ですが、最近好んで税務判例の分析を行っております。特に「重加算税」については、少し研究めいたことをしているところです。その中で興味深い事案を見つけましたので皆様にも小咄がてら、ご紹介してみようと思います。

2つの事案がありまして、いずれも最高裁判所から判決が出ています。一つは平成18年4月20日(事案A)、もう一つは平成18年4月25日(事案B)です。たった5日の差ですが、以下のような興味深い共通点・相違点がありました。

① いずれの事案も同じ税理士が関与していること(納税者は別です)
② いずれの事案も当該税理士が納税者をだまして納税者から事前に預かった資金を着服していること(この税理士はその後逮捕され懲役に服しています)
③ いずれの事案も査察(マルサ)による調査を受けて追徴課税されたものの、納税者からしてみれば「税理士が悪い」ということで訴訟に発展。いずれの事案も、重加算税の賦課については取り消されましたが、事案Aは過少申告加算税については取り消されませんでした。これに対して事案Bは過少申告加算税の賦課まで取り消されています。

税理士の手口はいずれも同じようなもので、依頼者である納税者に対して「私に任せれば税金を安く済ませる」として納税資金を預かった上で、税務署に対しては「所得ゼロ」の確定申告書を提出し、預り資金をそのまま着服したというものでした。税務署からしてみれば、実態と異なる申告書(所得ゼロ)が提出され納税を免れたということで、その後の査察調査において「仮装・隠ぺいによる過少申告」を認定し、通常のペナルティである過少申告加算税(10%)に代えて懲罰的な性質を有する重加算税(35%)を賦課したというところです。

ところで重加算税は、法律上、「納税者が課税要件事実の全部又は一部を仮装・隠ぺいし、その仮装・隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出していたとき」に課されることとされています。しかし今回の事案A・事案Bともに、仮装・隠ぺい行為を行ったのは納税者ではなく税理士です。この場合において、納税者に重加算税を課すことができるものなのでしょうか。両事案の裁判においても、当然この点が争点となりました。

税理士の行為を納税者自身の行為と同視しうるか、という点については別の最高裁判決があり、「納税者と税理士との間に事実の隠ぺい仮装についての意思の連絡があると認められる場合には同視される(=重加算税を課される)」との判断基準が示されていました。しかし事案A・事案Bのいずれも、そのような「意思の連絡」はなかったのです。したがっていずれの事案でも重加算税の賦課は取り消されました。

ではなぜ事案Aでは過少申告加算税は賦課されてしまったのか。これは重加算税が「納税者の主観的な責任を追及するための制裁的措置」であるのに対し、過少申告加算税は「公平性を担保するための行政上の措置」(制裁的な意味合いではない)という性質の差異から生じたものと考えられます。

具体的には、事案Aでは納税者側にも「落ち度」があった、というのです。すなわち確定申告の内容について税理士に対して一切確認せず、また確定申告書の控えや納税領収書の交付も要求していなかったというのは納税者側の注意義務違反であり、そうした「落ち度」がある場合には過少申告加算税を課さない「正当な理由」には当たらない、というロジックでした。個人的には、こうした「落ち度」の認定は納税者に対して酷な気もしました。

ちなみに事案Bでも納税者側の「落ち度」は認定されたのですが、こちらはオマケの話がありまして、実は当該税理士が税務署職員(統括調査官)に賄賂を渡して過少申告の事実を隠ぺいしていたというのです。このような課税庁側の職員の積極的関与まであって初めて過少申告に至ったということで、納税者側の「落ち度」があるにもかかわらず過少申告加算税も取り消されたということでした。

判例をみていると、ドラマでもなさそうな事件がいろいろ転がっていて興味が深まります。皆様も是非・・・いやオススメするのはやめておきましょう。

※本稿は令和4年9月30日現在の情報で執筆しております。
※記載されている内容は執筆時点で判明している法律・通達等に基づいて記載をしておりますが、その時点並びにそれ以降における正確性を保証するものではありません。また、一般的な事例を記載しておりますが、特定の個人や組織がおかれている状況に対応するものではありません。本稿を参考に何らかの行動を執られる場合には、税理士をはじめとする専門家にご相談の上ご判断ください。

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