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暗号資産(仮想通貨)の相続時と相続後の税負担がとてつもなく重くなる不都合な真実

平成31(令和元)年の税制改正や、昨今の国税庁の暗号資産の税務に関するFAQのアップデートで、暗号資産取引の多くは税務上も明らかになったと言えるでしょう。この点は、投資家にとっても我々税理士にとってもよかった、といえることなのですが、まだ手当が不十分な税目もあると感じています。
もっと実態に即した税制に修正すべきではないかと思うのが、いわゆる資産税に関して。論点は複数ありますが、今回は「暗号資産を保有したまま相続を迎えた場合」について述べたいと思います。

下記については、執筆時点で判明している法律・通達等に基づいて記載をしておりますが、その時点並びにそれ以降における正確性を保証するものではありません。また、一般的な事例を記載しておりますが、特定の個人や組織がおかれている状況に対応するものではありません。後日、国税庁より異なる見解が示される場合もございます。本稿を参考に何らかの行動を執られる場合には、税理士をはじめとする専門家にご相談の上ご判断ください。当社・筆者は一切の責任を負いかねます。

暗号資産は相続税の対象

国税庁が示すFAQにも記載がありますが、暗号資産を相続で取得した場合は、相続税が課されます。これは相続時の時価で評価することになっています。詳細はFAQで直接確認をしてください。
相続税は皆さんご存じの通り、最高税率55%となっています。計算方法は結構複雑なのでここでは割愛しますが、残した財産額に比例して税率が上がっていく超過累進課税制度を採用しているので、遺産額が多ければ多いほどより高い税率が課せられる仕組みになっています。

相続した暗号資産を売却したら、雑所得になる

相続した暗号資産を売却したら、相続人(財産を受け取った人)に所得税が課されます。これは相続した方に限らず、暗号資産の売買等で利益が出たら雑所得として所得税か課されるわけです。
ここで問題が生じます。
相続した暗号資産を売却した場合、どのようにして利益(損益)を計算するのでしょうか。
現段階では、下記の計算によるものと考えられています。

売却価額-取得原価(被相続人の取得原価を引き継ぐ)=損益

何か違和感を感じませんか?
はい、負担した相続税はどこにも勘案されません。
相続人は被相続人(亡くなった方)の取得原価を引き継ぐ・・・ここが大きなポイントです。
したがって、相続人は暗号資産を相続時の時価で評価した額に対する相続税を負担し、更に売却時に所得税を丸々負担する、ということになります。

暗号資産を持ったまま相続が生じると、とんでもない負担になる可能性

上記の内容をご覧いただいても、何が問題かよくわからない方もいらっしゃると思いますので、ひとつケーススタディをしてみましょう。

【Case1】
・親ひとり・子ひとりの家族
・親はADAをプレセールで300万円(@0.2円・1,500万ADA)を購入していた
・親は2021年10月に死亡、その際のADAのレートは@240円
・子は納税資金を確保するために2022年2月にすべてのADAを@125円で売却した

いかがでしょうか。まず相続税を考えてみましょう。ここでは議論を単純化するために、他の財産や控除などもなく、単にADAだけをもって亡くなったと仮定します。

【Case1の相続税(※1)】
・相続時の相続財産は 1,500万ADA × @240円 = 36億円
・相続税額は概算で 18億8,000万円(★1)

ADAを300万円くらい購入されていた方は時々見受けられますよね。36億円ってすごいですね、100万円でも12億円なのでうらやましい限りです(筆者は買っていません・・・)。
しかし、相続税額も18億8,000万円と半端ない金額です。
当然、相続財産にはADAしかなく、納税のためには法定通貨である円に替える必要があります。そして、円に替えれば売却益に対して所得税が課税されるのですが、これもすごいことに。

【Case1の相続人(子)の所得税(※2)】
・売却額は 1,500万ADA × @125円 = 18億7,500万円
・売却益は 18億7,500万円-(親のADAの取得原価)300万円= 18億7,200万円
・所得税・住民税は概算で 10億4,000万円(★2)

暗号資産そのもののボラティリティの問題もさることながら、相続税と所得税のダブルパンチ(わかりやすく二重課税と書きましたが、正確にはこれ)により、相続人は(★1+★2)の合計29億2,000万円の税負担が生じます。
よく考えてみてください。この子はADAを売却して得た円の総額は「18億7,200万円」に過ぎません。ということは、納税額が10億4,800万円も不足することになります。
この不足額は、相続人のその他の資産(個人で元々保有している財産から等)を売却してでも納税することになります。
相続した財産で納税できないなんて事態が起こるなんて誰が想定しているでしょうか。
・・・救済を受けるには、相続放棄をすれば納税義務も生じませんので、さっさと相続放棄をするしかない、という結論になる、かもしれません。
なお、売却した結果、納税額に足らないからといって救済する規定は税法にはない・・・ということも覚えておきましょう。

取得費加算の特例があるものの暗号資産は例外

実は、不動産や有価証券等、「譲渡所得」に該当する資産を譲渡した場合、その損益(所得)計算には、相続税の申告書の提出期限の翌日から3年以内の譲渡の場合、支払った相続税額を取得費に加算できるという特例があります。
もしこの特例が暗号資産にも適用される場合は、上記Case1の所得税負担は以下の通りになります。

【Case1の相続人(子)の所得税(※2)取得費加算の特例があったなら
・売却額は 1,500万ADA × @125円 = 18億7,500万円
・売却益は 18億7,500万円-(親のADAの取得原価)300万円 - 負担した相続税額 18億8,000万円= マイナスになるので所得はゼロ
結果、所得税・住民税は負担なし

ということで、負担額は劇的に改善します。といっても、売却した分を全て納税に回しても500万円納税額が足りないというひどい話になるのですが、10億くんだりの借金を抱えるよりはマシです。
しかし、現段階では暗号資産にはこの規定は適用されません。なぜならば、【取得費加算の特例は譲渡所得に限る】となっているからです(租税特別措置法第39条)。
ちなみにこの特例、そもそも昭和45年(高度経済成長期)に創設され、平成5年(バブル崩壊)に改正、平成26年度にも改正されています。

現段階での解決策は・・・

要するに、暗号資産を日本国内に居住している方の場合、抱いて亡くなってしまうと税負担がとんでもなく重いので、
1:さっさと法定通貨に替える
2:親子ともども国外に移住して相続税の対象から外れる
3:税制改正を働きかける(!)
くらいしかないのですが、個人で対応できるのは1か2、ということになろうかと思います。
法定通貨での相続であれば、相続税と所得税の2重課税なんて問題は生じませんからね。

他にも、上場有価証券の場合には相続時の評価について特例があり、ボラティリティの影響を一定程度緩和できる制度があります(相続税財産評価に関する基本通達169(上場株式の評価))。
暗号資産にもこのような特例を設ける必要があると強く感じています。
ブロックチェーンを支えるエコシステムとして、暗号資産は大変重要な役割を持っていると思いますが、日本居住者は二重課税の問題があるから保有するよりさっさと利確・・・となると、相場の下落という面もそうですが、そもそもブロックチェーン技術を支えにするベンチャーや技術開発は日本では育たない、などという悪影響を与えかねません。
相続税を含む資産税についてはどうしても個人の納税者の目線での話になるので、なかなか議論になりづらく、この問題点を指摘する方を見たことがほとんどありません。
そこで筆者は微力ながら、各方面に働きかけて、解決策の3を目指したいと思っております。
みなさまもご協力いただければ幸いです。

【八木橋が提案する制度改正による解決策】
・相続で取得した暗号資産について、取得費加算の特例を適用する(租税特別措置法第39条の改正により、「雑所得のうち、暗号資産の売却による所得」を対象に追加)
・相続税財産評価に関する基本通達169(上場株式の評価)を改正し、同通達の対象に「暗号資産のうち、活発な市場のある暗号資産」を追加)
・相続で取得した財産を売却しても納税額に不足する場合は、それ以上の税負担を求めないことの法定化

※本稿は令和4年2月1日現在の情報で執筆しております。
※記載されている内容は執筆時点で判明している法律・通達等に基づいて記載をしておりますが、その時点並びにそれ以降における正確性を保証するものではありません。また、一般的な事例を記載しておりますが、特定の個人や組織がおかれている状況に対応するものではありません。本稿を参考に何らかの行動を執られる場合には、税理士をはじめとする専門家にご相談の上ご判断ください

※本コラムの著作権は弊社並びに筆者が保有しております。無断転載複写については固くお断りさせて頂きます。一部引用については適切な措置をお願い致します。

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