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居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の見直しについて

(本記事は弊社事務所通信令和2年10月号に掲載された記事をWeb用に書き換えたものです)

今回は消費税の話を書いてみようと思います。というのは、2020年10月1日から新しい制度が始まっているのですが、あまり話題になっていない割に個人的に思うところがあったもので。

新しい制度というのは、「居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の見直し」というものです。

従来、不動産投資の一環としてマンションなどを購入した際、それに係る消費税額(建物部分)については消費税の確定申告において控除することができていました(これを「仕入税額控除」といいます)が、10月1日以降、その建物が「住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物(附属設備を含みます)」以外の建物等については、そもそも仕入税額控除自体を認めない、という制度に変更されました。

要するに、実際に貸すかどうかにかかわらず、「住宅として利用できる余地がある」建物については、仕入税額控除が認められなくなるのです。もっとも、その後3年間の状況を追跡し、その間に当該建物を売却したり、あるいは消費税の発生する賃貸事業(事業用の賃貸や民泊等)に供している場合には、3年後において仕入税額控除の適用を認める(ただし調整計算あり)ことになっています。

この制度、直接的には不動産投資を行っている個人・法人を中心に大きな影響を及ぼすと思います。少なくとも3年間は仕入税額控除の適用を受けられませんので、消費税の税負担が増加する可能性があります。また、買い手側の投資意欲を冷やしてしまう可能性もあり、現在不動産を保有されている方で、そろそろ投資回収(売却等)を検討されている方にとっても買い手がタイムリーに見つからない等の影響が出てくるかもしれません。また、個人事業主が事業拠点としてマンションを購入する場合には、3年後の調整計算の対象にもならないため、仕入税額控除の適用機会が完全に失われます。

もともと消費税の制度はきわめてシンプルでした。売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を控除して、その差額を納税する(または還付を受ける)というものです。消費税は「預かりもの」ですから、差額についてはきれいに精算されるべきものなのです。

しかし実際には、制度の隙をついて不正に消費税の還付を受ける事例が多発してしまいました(マンション自販機スキームなど)。これを防止する観点から、特にこの10年近く、仕入税額控除の適用については様々な特例措置が追加され、消費税の仕組みが非常に複雑なものになってしまいました。冒頭の「居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の見直し」も、こうした観点から設けられたものです。

税理士の視点からすれば、ある物件を購入したときの消費税については、3年間の状況推移を管理しなければならないということと、3年後に仕入税額控除の適用を受ける場合の調整計算に必要な計算要素についても継続的に収集する必要が生じます。個別物件ごとにこのような管理をしなければなりませんから、事務負担が増加することは間違いなさそうです。

およそ消費税の改正が行われるのは、こうした「制度の隙」を埋めることが主眼となっているように思います。システム開発になぞらえて、こうした対応を「バグフィクス」などとも呼びますが、こうした個別的な手当が積み重なってきた結果、出来の悪いパッチワークのような状況になってしまいました。

根本的にきれいな仕組み(わかりやすい仕組み)に戻すことはもはや不可能なように思いますが、今後導入される「インボイス方式」は、少なくとも消費税の本来の仕組みを忠実に反映させるものとして、多少はきれいな仕組みに戻るのではないかと期待したいところです。いや、期待2割不安8割くらいが妥当なところでしょうか。

※本稿は令和2年9月30日現在の情報で執筆しております。
※記載されている内容は執筆時点で判明している法律・通達等に基づいて記載をしておりますが、その時点並びにそれ以降における正確性を保証するものではありません。また、一般的な事例を記載しておりますが、特定の個人や組織がおかれている状況に対応するものではありません。本稿を参考に何らかの行動を執られる場合には、税理士をはじめとする専門家にご相談の上ご判断ください。

※本コラムの著作権は弊社並びに筆者が保有しております。無断転載複写については固くお断りさせて頂きます。一部引用については適切な措置をお願い致します。

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