(本記事は弊社事務所通信平成29年5月号に掲載された記事をWeb用に書き換えたものです)

皆様こんにちは。パートナーの鯨岡です。

4月下旬の話ですが、私の監査法人時代の同期と久しぶりに再会いたしました。

彼(日本人です)は監査法人を退職後すぐにニュージーランドの企業に転職して現地に飛び、つい3~4年前にシンガポールの会社に転職したところまでは知っていたのですが、つい先月、シンガポールで独立して新規事業を立ち上げたとのことでした。

10年以上海外でバリバリ仕事をしているなあという印象でしたが、いよいよ現地で独立とは驚きです。どこかの会社に属するのではなく、自分自身のビジネスでシンガポールの就業ビザをとるのは大変難しいのでしょうが、現地での3年間の勤務と納税の実態が認められてビザが下りたのだそうです。ふむふむ。

今回はたまたま、仕事の関係で日本に立ち寄ったとのことで急遽連絡を受け、その日の仕事終わりに少しだけ近況報告や情報交換などをしたのでした。そもそも覚えてくれていたことが有り難いですね。

シンガポールといえば、企業が主に東南アジア方面にビジネスを展開していく上で地理的にもハブになるうえ、税率も低いことから海外進出先として人気のある場所です。

日本からも、企業のみならず、個人の富裕層の海外移住先としても人気のある場所となっておりますが、その彼によれば、先日の相続税法の改正によって富裕層関連のビジネスの動きが少し曇ってきたという話をしていました。

これまで、被相続人(お亡くなりになった方)が日本国籍を有していれば、原則として、全ての財産(国内・国外財産)が相続税の対象となりますが、被相続人及び相続人の双方が国内に5年以上住所を有していない場合には、被相続人の有していた国外財産には相続税が課せられないこととされていました。

このため、相続が発生することが見込まれる親と子の双方が5年超にわたり国外に住所を移転することによって、国外財産への課税を免れる行為が散見されていたところですが、平成29年度の税制改正によって、この取扱いに係る期間が「5年」から「10年」に延長されました。

新しいルールは、過去の居住期間にかかわらず、平成29年4月1日以後に発生する相続・贈与から適用されます。

この期間延長は、海外居住期間が5年以上10年未満の方には大きな影響を与えているようです。

いままでは「5年」たてば国外財産に相続税がかからない、と思っていたところ、これが「10年」になったというわけですから。

またこの規定は、相続人(受ける側)も10年以上国内に住所がないことが要求されますから、足並み揃えて海外転居するというのも一層難しくなってきました。既に「出国税」の制度も導入されていますから、相続税を免れる目的での海外居住という選択肢はほぼ塞がれたといってもよいでしょう。富裕層向けに海外居住を勧めるようなセールストークも難しくなっていくでしょうね。

税制は常に、「課税の穴」(制度がなく課税できない状態)を塞ぐために改正されていきます。とはいえ多くの場合には、改正日以降の取引について有効となるように措置されますから、既存の税制を前提とした行動には一定の配慮がなされるのが通常です。しかし今回の相続税法の改正のように、これまでの海外居住者の状況にかかわらず一律に新しい制度が適用されるケースもありますので、現在の税制に基づくタックスプランニングも、計画当初には想定し得ない税制改正によって、後日意味のないものにされることもあるのだと感じました。

米国でも先日、法人税の税率を35%から15%に引き下げる税制改正の概要が発表されたところですが、まだ予断を許しませんね。果たして税率引き下げによって米国企業の国内回帰を果たすことができるのでしょうか。

※本稿は平成29年5月1日現在の情報で執筆しております。
※記載されている内容は執筆時点で判明している法律・通達等に基づいて記載をしておりますが、その時点並びにそれ以降における正確性を保証するものではありません。また、一般的な事例を記載しておりますが、特定の個人や組織がおかれている状況に対応するものではありません。本稿を参考に何らかの行動を執られる場合には、税理士をはじめとする専門家にご相談の上ご判断ください。